自転車で四国一周 〜4日目〜

~6月3日(土) 4日目~

 

 あまりよく眠れなかった。朝は、あまりの寒さに目が覚めた。こんなに冷えるとは思ってもいなかった。だが、無事に朝を迎えられた喜びは大きかった。昼夜の寒暖差は四国の山の中はもの凄い。ちゃんと事前に調べておいたら防寒具持ってきたのに、と思いながら、自動販売機にあったホットコーヒーを買い、飲みながらフルグラを食べた。食べ終わると、一台の車が止まった。おじさんが出てきて、トイレに行った。そこから出てくると、寒いね~なんて言いながら話をした。そしたら、なんと車の中で温まり~と言ってくれて、ありがたいことに30分程、車の中の暖房で温まらせてもらった。室戸岬足摺岬、どっちがいいか話をして、そのおじさんは室戸岬の方が良いと言っていた。御礼を言って外に出て、寝袋を片付けようとすると、結露でびしょびしょに濡れていた。車の中に入れて乾かせば良かったと思いつつ、トイレの中の手の乾燥機で乾燥させた。そして出発。最初の目的地は、日本一の杉がある、杉の大杉だ。昨日通った、急坂を上っていると、上にある民宿の基礎の土台の木のところに、本当の人かと思うくらいリアルな等身大の忍者がいた。結構怖くて、本物かなと思い、ずっと見たが、動くことはなかった。他にも、鹿にも遭遇した。こちらをおそらく見ていて、僕が見ると、逃げていった。朝でもかなり怖い忍者の人形とが鹿とかに遭遇すると、昨日の夜、先に進まなくて、本当に良かったと思った。朝の山の中はとても気持ちがいい。テンションが上がり、山の空気をたくさん体で感じながら走った。 

f:id:benjonny:20190206135242p:plain

この坂を下って、一番最初に見える建物が、道の駅にしいや


橋桁だけが残る橋を見た。そして杉の大杉に到着。ここは、美空ひばりさんが訪れた場所でも有名だ。杉の大杉のエネルギーをたくさん吸った。神社で参拝した後、水で手を洗うのを忘れていて、手を洗いに行くと、おばさんと柴犬がいた。柴犬がこの水を飲んでいたので、手を洗ったあと、僕も飲んだ。その方はご主人が高知工科大学で教えられているそうで、その間に杉の大杉に来られてそうだ。話をして別れようとすると、なんと参拝で払う予定だった500円を僕にくれた。ジュースでも買いよと優しく言ってくれた。なんてありがたいお方なのだろう。深く感謝した。後、美空ひばりの石碑があった。「川の流れのように」の歌詞が彫られてあった。そして、杉の大杉を出発。次は、高知県庁へ向かう。出発したら、すぐの道の駅杉の大杉に、新聞屋みたいなのバイクで日本一周と書いた紙を貼って、休憩している人がいたが、先ほどの場所で結構時間を使ったので、通り過ぎた。綺麗な川や橋を通りながら高知市に近づいてきた。道路の素材が良いのか、急に速度が速くなる。自転車に乗っていると、道路の素材がいいのか、自分の氣がいいのか、はたまた、風が押してくれるのかよくわからないが、下り坂なのに、速度が落ちていったり、上り坂なのに、速度が上がっていったりする。不思議で仕方がない。目の錯覚なのかなと思ったりする。とても氣になるところである。そして、高知駅に着いた。ご当地アイドルのイベントか何かをやっていた。その後ろには、とても大きい像が、左から、武市半平太坂本龍馬中岡慎太郎とあった。次は高知県庁へ向かった。

f:id:benjonny:20190206140319p:plain

高知県


高知県庁の隣には高知城があった。城好きな弟には申し訳ないが、見えてしまうのだから仕方がない。そして、次は、その近くにあるひろめ市場へ向かった。着いたはいいものの、自転車を止める場所が無い。軽く止められる所はたくさんあるものの、すぐに盗られてしまいそうだ。だから、市場の中ではなく、商店街にあるたたき丼の明神丸というお店に入ろうと思い、店員さんに自転車は中に入れていいかと聞いたが、駄目で、かわりに近くにある大きい駐輪場を教えてもらった。そこに止めて、その店に行こうとしたが、お店の人の対応があまり良くなかったので、そこの店はやめて、市場の中に入った。そしたら、一際目立ち、客がならんでいるお店があったため、僕もならんだ。同じ明神丸という店だが、ここは客が多く、商店街の明神丸は全く客がいなかったので、なにかが違うのだろう。僕はかつおが苦手だから、食べられなかったらよくないと思い、真ん中の小中大の中の7切れを頼んだ。隣に並んでいる客に聞いたところ、机はどこでもいいと言っていたので、空いているところに座った。食べていると、同じ机に座って食べていた、男性2人に話しかけられた。この方たちは、1人は京都、もう1人は大阪から来たそうで、他の机に座っている人達とは雰囲気が違っていた。市場の雰囲気は、不思議で、大阪のようなわいわいとした感じでもなければ、静かというわけでもなく、僕が感じたのは、家族性が強いように感じた。仲間意識が強いというか。人見知りがあるのか。仲間、友達とは、よくしゃべるけど、知らない人とはあまり話さないような感じだった。とにかく不思議な空気だ。関西人のお2人とは、和気あいあいと話しをした。1人は高知県出身で、話によれば、春先のかつおが一番おいしくて新鮮らしく、ひろめ市場にあるこの明神丸は、高知でも一番おいしいかつおのたたきのお店なのだそうだ。僕は、本当に超がつくほどラッキーである。かつおは苦手なのだが、ここのかつおのたたきは絶品すぎた。焼いたうまみとかつお本来の味が最大限に引き出されている。ひろめ市場を出ると、次は桂浜へ向かった。

桂浜に着くと、自転車置き場に、前の車輪に荷物が2つ、後ろに2つと大量の荷物のランドナーが置いてあった。駐車場を管理している人に、君、若いね~と言われた。年齢は関係ない。坂本龍馬像の所に行くと、自転車に乗る格好をした男性に会った。聞いてみれば、千葉県千葉市から半年をかけて日本一周をする夢を叶えるために、会社を50歳で早期退職して、夢を叶えている真っ最中だそうで、ランドナーの前後に2つずつ、合計4つのバッグを下げてのの旅行がその方のポリシーだそうだ。なんとも変わっている、凄いポリシーである。素晴らしいと思った。一緒に写真を撮って、ブログの名刺をもらい、別れた。坂本龍馬の像はとても大きく、その目は未来を見据えているように見えた。勇ましい。桂浜からはだだっ広い海と波の音が聞こえた。坂本龍馬が見た海の景色と聞いた波の音と同じものを見聞きしていると思うと、勇気が湧いてきた。自分は可能性の塊なのだ。なんでもできる。どこまででも行ける、と。砂浜の砂を袋に少々詰めて、持って帰った。16;00、桂浜を出発した。

f:id:benjonny:20190206141406p:plain

桂浜。ご家族に撮ってもらった。



次に目指すは、高知の一番西、四国最南端の足摺岬だ。ずっと海岸線で、なぜか僕は海岸線は早く走れるので、30kmくらいの速度で走行していた。そして、軽い山をいくつか越えて、道の駅かわうその里すさきの少し前にある大きなスーパーマーケットでお腹もすいたので休憩することにした。駐車して、買い物に行こうとすると、車椅子に乗ったおばあさんが車にお花を積もうとしたので、手伝いましょうか?と言ったら慣れているから大丈夫よ、と言われた。そこからいろいろ話をした。四万十の方から毎週お孫さんを習い事に送りに来るついでにスーパーマーケットに寄ったのだそうだ。あと、ここから足摺岬に行くには久礼坂というとんでもない坂を越えなければ行くことはできないそうだ。僕はそのことを初めて聞いたが、これまでもたくさん山を越えてきたので、大丈夫だと思った。そして30分程話をして、別れ、買い物に行った。お腹がすいていたので、いろいろと買って、近くにあったベンチで食べた、だが、もうこの場所に1時間近くもいてしまっているではないか。早くしないと、日も暮れて真っ暗になってしまうので、3分の1程ご飯を残して、出発した。30分も話したことを少し悔やんだが、もう過去には戻れないので、急いだ。しかし、もうすぐには日が沈んで、真っ暗になってしまった。僕は、自転車のライトだけを頼りに急いでペダルを漕いだ。途中、ライダーズハウスみたいな宿泊施設があるという看板があり、建物から出てきたお姉さんに聞いたが、かなり遠そうだったし、道の駅あぐり窪川と同じような距離だったので、ライダーズハウスに行くのはやめた。坂道は永遠に続くように見えた。始めの方は街灯があったが、だんだんと街灯と街灯の距離が離れていき、完全に自転車のライトしか明るいものはないという状況にまでなってしまった。しかも。前と後ろは道路で、右左は全て森である。動物や、幽霊が出ても全然おかしくはなかった。僕は、幽霊と遭遇したくはなかったので、下を見ながらペダルを漕いだ。そうすると、目の前に「登坂車線」と表示された看板が見えた。よし頑張るぞと気合が入り、より一層早くペダルを漕ぐ。そうすると「登坂車線終わり」という表示された看板が見えた。僕は、やった!もう下り坂だ!と思い気持ちが軽くなる。だが、一向に下り坂になる気配はない。次の瞬間、なんとまたもや「登坂車線」と書かれた看板が見えた。一気に精神的に追い込まれる。だが、もう後には戻れない。下を見ながら、ひたすら漕いだ。もし漕ぐことをやめれば自転車は止まり、そして休憩をすれば動物や霊が近寄ってくるかもしれない。そう思うと、ぞぞぞっと鳥肌が立つ。というよりかは、この坂を上っている時はずっと鳥肌が立っていた。完全に真っ暗な中で僕一人。明かりは自転車のライトのみ。しかも終わりの見えない坂。隣は森。体力は限界を超えていて、ほぼ気力だけで上っている。こんな経験は初めてだ。どうなるかと思ったが、ようやく「登坂車線終わり」という看板が見えてきた。通り過ぎる。ようやく下り坂だ!と思ったのだが、またもや一向に下り坂の気配がない。またまた嫌な予感。すると、目の前に、「久礼坂」と書かれた看板が見えた。えっ!?ここからが本当の坂なの!?!?気力も体力もすでに限界の僕に、とめどなく襲ってきた久礼坂。なんで、四国一周とかやってしまったのだろう。事前にこの坂のことを知っていたら、次の日の明るいときに上ったのに。こんなに四国は山が多いなんて知らなかった。などと言い訳にもなることばかり考えてしまった。しかし、もう後には戻れない。あとは自分との勝負だ。こんな状況に立たされて、ネガティブなことばかり考えていたら、本当に霊を引き寄せるかもしれない。そんなことを思い、僕はポジティブな事を考えることにした。この坂を真夜中、自転車で、そして、何㎞か知らないで上り切った人は僕だけだろう。伝説になるかもしれない。そんなことを考えながら登った。意地でも上ってやると。この坂はどこまであるかわからない。ここで止まると霊にやられてしまうのではないか、今すぐにでも霊に襲われるのではないかと思い、全身鳥肌が立ちながら、懸命にペダルを漕いだ。最後の方は、疲れたというよりかはゾーンに入っていて、体力、気力の限界を通り越し、この坂を越えることに楽しみさえ抱いていた。気合でペダルを漕いだ。この坂では、1回たりとも止まってはいない。ひたすら前に進む。必ず頂上はあると信じて。うぉーーとか、あーーとか大声を出しながら。そして漕いでいると、「七子峠」という看板が見えてきた。ようやく下り坂になるのである。最後の力を振り絞って上った。そして下り坂だ。かなりの坂だったので、下り坂も急なのではと思ったが、少しゆるやかな下り坂だった。途中に、ラーメン屋があり、人がいたので、ここから道の駅あぐり窪川はどのくらいの距離ですかと聞いたら、10km程度で、ゆるやかな下り坂だよ、そこの道の駅は結構野宿している人がいるよ、と教えてくれた。自転車が無かったら乗せてあげたのにと言い、チョコレートを一つくれた。ありがたい。そして、下り坂とゆるやかな上り坂を走って、21:30過ぎくらいに道の駅あぐり窪川に到着した。峠を越えたのだ。おそらく、昼間だったら、こんなにきつくはなかっただろう。夜中に登ってしまったから、大変だったと思う。誰か野宿している人はいないか探してみると、一つだけテントがあった。僕は端の方に良さそうなベンチを見つけたので、そこで寝ることにした。母さんに電話をしたが、フラフラでかなり疲れていて、言葉があまり出なかった。だが、この峠を越え、しかも夜中に越えたということは、自信もついたし、度胸もかなりついたと思う。そして、フルグラを食べて、就寝。

f:id:benjonny:20190206141301p:plain

道の駅「あぐり窪川